はじめまして。松崎 丈(@joe_2638)と申します。
『Sex and the City』。世界中の女性とゲイの心を鷲掴みにし、アメリカのケーブルテレビHBOの名を満天下に知らしめたこの傑作ドラマシリーズの放送が終了してから早16年。映画版『Sex and the City 』と『Sex and the City 2』の公開からもすでに10年の時を経ています。
にもかかわらずSex and the City(以下SATC)はいまだに多くの人々の心に刻み込まれ、根強い人気を誇り続けています。ドラマシリーズ時代からの古参ファンに加えて、Amazon Prime Videoなどの動画配信サイトでSATCと出会い心酔していく新たな信奉者も日々増えているそうです。
1998年のシリーズ開始以来20年以上、時空を超えて愛され続けるSATC。人気の秘訣の1つが諧謔とウィットに富んだ名セリフの数々です。
今回は実際の英会話でも使える便利な表現を含むパンチの効いたセリフを英語でご紹介しながら、SATCの魅力に迫ってみましょう。(SATCの概要は公式サイトで)
結婚はただの「終わり」(サマンサ・ジョーンズ)
恋と仕事とセックスにそれぞれの価値観を持って生きる4人の女性を描いたSATC。シーズン3でついに4人のうちの1人が結婚します。4人の中では1番純真なお姫様キャラのシャーロットです。
彼女の結婚式の前の晩、独身最後の夜を一緒に過ごすために集まった4人。そこでサマンサが発したのが次の一言。
Samantha: You know. Marriage doesn’t guarantee a happy ending. Just an ending.
Charlotte: The end of dating!
Samantha: It’s also the end of the possibility that your next great fuck is around the corner.
サマンサ:あのさ、結婚って「幸せな結末」じゃなくて単なる「終わり」よ。
シャーロット:そう、デート遍歴の「終わり」!
サマンサ:すぐそばにある目くるめくセックスを手にする可能性も「終わり」だけどね。
(Season 3/ Episode 12 “Don’t Ask, Don’t tell”より)
さすがは性の女戦士・サマンサ!たしかに結婚してしまうと気の向くままにエキサイティングなセックスを楽しむわけにはいきません。サマンサならではの結婚観と言えるでしょう。このセリフの前にはミランダとキャリーの次のようなやり取りがあります。
Miranda: I can’t believe you’re getting married. Is this the beginning? Are you next?
Carrie: Oh, yeah. I’m headed for a storybook ending.
ミランダ:あんたが結婚するなんてね。これが始まりなの?キャリー、次はあんたの番?
キャリー:そうよ。あたしも物語の「終わり」に向かって進んでるのよ。
ミランダのbeginningという言葉からキャリーのendingという言葉が導かれ、それを受けてサマンサ、シャーロットのセリフにもendという言葉が散りばめられています。この巧妙な仕掛けによって会話に小気味よいテンポとリズムが生まれています。
サマンサの”great fuck”という言葉がドぎつい印象を与えますが、その裏には細かく計算された脚本術が隠れています。
SATCに登場するセリフは実に細やかな配慮と戦略に裏打ちされていて、それが視聴者の潜在意識に働きかける部分があります。それがこのドラマシリーズの人気の秘訣と言えるでしょう。
英語がお好きな方や勉強されている方はぜひ原語で見てみてください。吹き替えで見るより何倍もSATCを楽しむことができるはずです!
さて、サマンサのセリフに含まれる実際に使える便利な表現は「be around the corner」です。justを入れて「be just around the corner」などともいいます。空間的・時間的に近接していることを表す表現でネイティヴもよく使います。
My favorite coffee shop is just around the corner.
(僕のお気に入りのカフェがすぐそこにあるんだよ。)
My second date with Brian is just around the corner.
(もうすぐブライアント2回目のデートをするの。)
アンナ・カレーニナじゃないのよ(ミランダ・ホッブズ)
シーズン6の終盤、キャリーはロシア人の芸術家アレクサンドロ・ペトロフスキーと付き合います。
芸術家のペトロフスキーはキャリーのためにピアノ曲を作曲したり、シリアスな恋愛の詩を朗読したり。「これでもか!」と言わんばかりのロマンチック攻勢にアメリカ人のキャリーは押され気味。
そんなキャリーが親友のミランダに電話で相談する場面で、自らの結婚式を間近に控えたミランダが一言。
Miranda: I think you should tell him that this whole romance thing gives you the icks, turns your stomach and that he’s dating you, not Anna Karenina.
ミランダ:過剰なロマンスで具合が悪くなってる、吐き気がするって彼に言うべきよ。アンナ・カレーニナと付き合ってるんじゃないんだからさ。
(Season 6 / Episode 14 “The Ick Factor”より)
ロマンスなんて信じない、人一倍シニカルなミランダの皮肉たっぷりのセリフです。ロシア人の彼氏を皮肉って「彼はアンナ・カレーニナと付き合ってるんじゃないだからさ!」なんて言うところはいかにもミランダと言う感じです。(アンナ・カレーニナはロシアの文豪:トルストイの小説の主人公)
この電話を受けたとき、ミランダはウェディングドレス選びの最中でした。白いウェディングドレスを勧める店員に、
Miranda: I said no white, no ivory. No nothing that says virgin. I have a child. The jig is up.
ミランダ:白やアイボリーはダメって言ったでしょ。「処女」を意味するものなんてダメ、私には子どもがいるんだから。(白やアイボリーなんて)いまさら手遅れなのよ。
これもかなりエッジの効いたセリフですね。
SATCは決してニューヨークに暮らすセレブな女性たちの物語ではありません。作家、PR会社経営、弁護士、アートディーラーと、確かに4人の女性の職業はきらびやかに見えますが、それぞれが恋や仕事に悩みを抱えています。
SATCの女性たちの魅力の1つは彼女たちがさまざまなことに悩み、いろんな壁にぶつかりながらも「正直」であり続けようとしているところです。そこに多くの人が共感するのだと思います。
“The jig is up!”(もう手遅れ、万事休す)というミランダのセリフは、彼女たちの正直さを如実に表しているとても素敵なセリフと言えるでしょう。
ミランダのセリフに含まれる実際に使える便利な表現は「turn one’s stomach」です。「吐き気を催させる」とか「気分を悪くさせる」という意味です。直訳すると「胃をひっくり返す」ですから、たしかに「おえっ」となってしまいそうな表現ですよね。
I love Cindy, but her boyfriend is so clingy. Talking with him really turns my stomach.
(シンディのことは大好きだけど、彼女の彼氏ったら本当に粘着質なの。彼と話してると吐き気がしてくるわ。)
彼の舌づかいはどうなの?(シャーロット・ヨーク)
ひたすらgood sexを追い求めるサマンサですが、シーズン1の終盤でジェイムズという男性と出会います。
なんとサマンサはジェイムズと恋に落ちてしまい、彼女の慣例を破って最初のデートではセックスをせず、「これが本当の愛かも…」と思うほど。
ついにジェイムズと事に及んだサマンサでしたが、あろうことかジェイムズの「息子」はとってもコンパクトサイズ(元気になっても7.5cm:サマンサ談)。
失望のあまりさめざめと泣きながら3人の親友に悩みを打ち明けるサマンサにシャーロットがかけた言葉が、
Charlotte: Is he a good kisser?
シャーロット:キスはうまいの?
(Season 1 / Episode 12 “Oh Come All Ye Faithful”より)
シャーロットの魅力はちょっとトンチンカンで天然なところ。良かれと思って精いっぱい考えた一言なのに、周囲はあ然としてしまいます。サマンサもシャーロットの心配してくれる気持ちは分かりつつも、
Samantha: Who the fuck cares?
サマンサ:そんなことはどうだっていいわよ!
と、f word(品のない禁句表現)を炸裂させてしまいます。自分の責めながらも泣き止まないサマンサにシャーロットの天然が追い打ちをかけます。
Charlotte: How is he with his tongue?
シャーロット:彼の舌づかいはどうなの?
キャリーとミランダは茫然とシャーロットを見つめます。
SATCが多くの支持を受ける理由の1つは、形はどうあれ4人の女性がお互いのことを思いあっていることでしょう。表現の形は様々ですが、4人が強い友情の絆で結ばれていることに、あるいは共感しあるいは憧れる視聴者が多いのではないでしょうか。
彼のスモールサイズの「息子」を嘆くサマンサを励ますやり方もみんなそれぞれ。キャリーは極力冷静に、
Carrie: It’s not the end of the world.
キャリー:それですべてが終わったわけじゃないでしょ。
Carrie: Look. We’ve all been there.
キャリー:みんな経験あることだって。
などと慰め、ミランダはエッジの効いたウィットたっぷりの言葉をかけます。
Miranda: I was once with a guy the size of one of those little miniature golf pencils. Couldn’t tell if he was trying to fuck me or erase me.
ミランダ:ミニチュアの(消しゴム付きの)ゴルフクラブみたいな鉛筆があるでしょ。昔、アレがそれくらいのサイズの男と付き合ってたことがあるのよ。彼がセックスしようとしてるのか私を消そうとしてるのか分からなかったわよ。
これを聞いたキャリーは思わず吹き出し、サマンサは余計に泣いてしまいましたが…。ともかく4人はお互いを時には叱責し時には励まし合いながら、自分たちの幸せの形を模索しているのです。
さて、シャーロットのセリフの中に含まれる使えそうな表現は「How ~ with …?」です。「~の…はどうなの?」という感じで技術や力量を訊くときに役に立ちます。
How is he with his negotiation skills?
(彼の交渉能力はどうなんだ?)
I know you are good at reading English, but how are you with speaking it?
(君が英語の読解が得意だということは分かったけど、スピーキングはどうなの?)
まとめ:色褪せない魅力、普遍的なテーマ
SATCがいまも色褪せず多くの人を引き付けるのは、愛情、友情、仕事、生き方など誰にでも当てはまるような普遍的なテーマを、コミカルな中にもしっかりと植え付けているからです。
そこには不妊や乳がん、介護などかなり重たいテーマも含まれています。単なる「セックス最高!」「恋愛べったり」なドラマではないのです。
そして各エピソードに散りばめられたユーモアとウィット、そして真心のこもったセリフの数々は、見ている人の心を掻き立て、慰め、勇気づけ、元気づけます。
今回は物語の中心人物であるキャリーのセリフを取り上げませんでしたが、もちろん彼女のセリフにも心揺さぶられるものがたくさんあります。それはまた別の機会にご紹介したいと思います。
すでにSATCファンの方はぜひ一度、原語でSATCを見直してみてください。きっと新しい発見があるはずです。SATCをまだ見たことがない方は、字幕版でも吹替版でもいいので観てみてください。きっと元気をもらえるはずです。Amazon Prime Videoなら全シーズンエピソードを視聴することができます。
それでは、またいずれ。Have a nice day, everyone!